会長メッセージ

     ©AkiraKinoshita


AI 人工知能 Artificial Intelligence    

         

菅野由弘

 

 地球温暖化による猛暑の夏、ロシアのウクライナ侵略、イスラエルのパレスチナ攻撃、心穏やかに暮らせない日々が続いています。パリ・オリンピックや、高校野球などに浮かれていて良いのか、しかし、私たちの足元は、一見平和です。

 

 平和であればこそですが、戦争と並び称するのも不穏当とは思うものの、昨今の ”AI” の発達は、音楽や芸術にとっても、脅威と言わざるを得ません。何しろ、発達スピードが猛烈に速い。一昨年に、「生成AI」が出てきた頃は、のんびりしたものでした。特に我々音楽系は。「面白い」「利用価値があるかも知れない」「音楽にも応用できそうだ」「積極的に使おう」と言った「対岸の火事」的なアプローチだったと思います。工学系の人達からは「従来の確率モデルとはかなり異なり、いずれ脅威となるかも知れない」という発言が相次いでいましたが、私たちには、遠い世界でした。昨年になっても、我々は、どちらかと言えば「有効な使い方を音楽にも応用しましょう」といった鷹揚な発言が主流で、あまり危機感は持っていませんでした。が、その狭間で、チャッカリAIに生成させた楽曲を少し修正して、自作と称して出してくる作曲家も生まれています。つまり、技術はそのレベルに達しているということです。いつの間にかGarage Bandで作られるような楽曲以上のものが、いくらでも排出されるようになっています。

 

 日本は、AIに入れ込む楽曲には著作権が認められておらず、無限に使って良い状態になっています。つまり、あなたの曲も、私の曲も、勝手に、通知することもなく、使用料を払うこともなく,合法的なAIの「餌」となるわけです。既になっていると思われます。そして、現在の技術では、そこから生成されたAI楽曲から、何が使われたかは検出できませんし、AI楽曲であるか否かの判定さえも出来ません。今、「AIで自動生成された楽曲には、著作権は与えない」方向で議論が進んでいますが、自動生成された楽曲かどうかが、判別できない状況では、人の良心に頼るしかなく、悪意を持って使う人には無力です。「性善説」に期待するだけです。

 

 程なく、波形合成によって、電子オーケストラのような楽曲も生成されるようになることは、目に見えています。いや耳に聞こえています。つまり、「コンピュータに発音させ、スピーカから再生される音楽」は、AIに取って代わられる可能性が色濃くある、ということです。こうした状況にどう対応すべきかを、深く考えなければならない段階に来ています。世の中の音楽家の位置づけを考えると、「多くの作曲家が失職する」と言っても、大して誰からも憂いて頂けないような気がします。つまり、作曲家だけが慌てている。いや、まだ慌ててもいない。

 

 恐らく、最後まで生き残れるかと想像できるのは、楽器や声の生演奏と、真に創造的な楽曲領域(ただしこれは危うい)だけです。それだけにしがみついていて良いのか、AIが作曲した曲をAIが判定するなど、考えてもゾッとします。人類に音楽は必要ない、という極論が現実のものになりつつあることを、悲しみを以て考える今日この頃です。