会長メッセージ
「この法人は、我国の音楽文化活動の中心となるべき作曲の推進を促すとともに音楽著作権を擁護し、もって我国の音楽文化の普及と発展に寄与することを目的とする。」という理念を掲げて「日本作曲家協議会」の前身が発足したのが1962年、それから63年が経過したことになります。その間、日本の作曲活動を取り巻く状況は、大きく変化してきました。音楽活動は活発になり、多くの音楽が生まれ、それらをお客様に届ける環境が整ってきた事は確かな前進だと思います。
音楽が聴衆に届くシステムは日進月歩、巷には音楽が溢れる状況になってきたと言っても過言ではありません。が、そのために、音楽を作曲し、それが演奏されて聴き手に届く、という単純だった構図の間に様々な「媒体」が関与し、音楽を薄めてしまう結果になっていると感じるのですが、いかがでしょうか。
そこに昨今、AIの関与が鮮明になってきました。既に現時点で、AIが作成した楽曲が、密かに流通しています。「音楽を作曲し、それが演奏されて聴き手に届く」という単純だった構図のトップ、「音楽を作曲」するのが、人間ではなくAIである状況です。「演奏されて」のところは微妙ですが、「録音された演奏生成」はAIが担うことが可能です。が、「生演奏」は今の所不可能です。そして関与する「媒体」は無限に拡がり、かなり薄まった音楽が、聴衆に届く事になります。そしてそれは、増加の一途を辿ると予想されます。つまり、かなりの数の「作曲家は不要である」状態です。ただAIが産むものは、過去の音楽の集積ですので、未来予測という意味では、我々にもまだ出る幕が残されていると信じます。また、「生演奏」は当分AIには不可能です。
そう考えると、63年前の「宣言文」に立ち返り「この法人は、我国の音楽文化活動の“未来を担う”中心となるべき作曲の推進を促すとともに音楽著作権を擁護し、もって我国の音楽文化の普及と発展に寄与することを目的とする。」という新たな、しかしほとんど変わらない原点に立ちたいと思います。「未来を担う作曲活動」を行い「著作権をAIに渡さない」ことを目標とし、「AIには不可能な生演奏」をもって「聴衆に直接音楽を届ける」。我々は「心を込めて音楽を作曲し」「AIには不可能な本物の生演奏」(出来れば名演奏)をもって、「媒体に薄められない状態」でお客様に聴いて頂く。それを目指したいと願っています。
一般社団法人 日本作曲家協議会
会長 菅野由弘